咳とたん
咳(せき)は肺の中の空気の通り道(気道:きどう)にある咳受容体が刺激されることで起こる反射の一種です。たんのない乾いた咳と、たんがからんだ湿った咳に分けられます。たんを出すための咳は、止めてしまうと気道をふさいでしまうので薬の選択には注意が必要です。たんの中には病気の原因菌や様々な細胞が含まれており、肺炎や肺がんなどの診断にもつながります。咳の症状持続期間と感染症には因果関係があります。発症から3週間(急性咳嗽)では感染症の可能性が高いのに対し、発症から8週間以上(慢性咳嗽)では感染症以外の原因が多くなります。
たんの産生とクリアランス
空気の通り道(気道)は粘液でおおわれており、外からの侵入者から保護されています。気道粘液は1日約数10~100mlが産生され、粘液線毛輸送により無意識のうちにクリアランスされています。しかし、肺に炎症が起こると、ねばり気物質(ムチン)が多く作られ、除去するために咳が必要になります。たんを出す咳は、気道を開くための生体防御反応のひとつです。
たんの成分
たんは90%以上が水分であり、これに粘り気成分ムチンが含まれています。ぜんそくなどのたんが増える病気では、ムチンを産生する細胞(杯細胞、粘膜下腺細胞)が増加します。
気道ムチン遺伝子の発現調節
たんに含まれるムチンは、MUC5ACとMUC5Bが中心です。MUC5ACの遺伝子は、ぜんそく、COPDに関連する種々の因子(サイトカイン、成長因子、たばこ煙など)によって発現が増加します。近年、MUC5ACの発現経路についても研究が進んでいます。
たんのある咳の治療
多くのたんがでる咳は、たんを出すための防御反応と考えられます。治療は咳を止めるのではなく、たんを出しやすくするようなアプローチが必要です。たんが多くなる病気自体の治療のほか、たんを出しやすくする薬(去痰薬、喀痰調整薬)、たんの量を調整する薬(マクロライド、抗コリン薬)などの方法を考えます。